ロシェロールが最初に発表したピアノ曲。未刊の習作は別として、本作がロシェロールのピアノ作品の出発点となった。ロシェロールは1970年代まで合唱曲、劇音楽、吹奏楽曲の創作に注力していたが、本作を契機にピアノ曲への参入を果たす。この経歴こそ、ロシェロールが他のピアノ専業の作曲家と本質的に異なるユニークな発想による多数のピアノ曲を書く素地となっている。現行の各出版社のロシェロールのプロフィールには「最初に発表したピアノ曲が好評を博し、次第にピアノ曲の創作に重点を移した」などと書いたものが多いが、「最初に発表したピアノ曲」とはまさに本作を指す。確かに今見ても好感度の高い曲集だと思う。各曲に標題は付いているが、直接的な描写音楽ではない。あくまでも「ムード」なのである。例えば最終曲「フィエスタ」にしても、にぎやかな祭りそのものではなく、終わった後のけだるい余韻を思わせるという具合。対象物からほどよく距離を取る。全体に、クラシックというにはくだけすぎているが、ポピュラーピアノにしては洗練されすぎている。子供が弾いても大人が弾いてもよい。学習者が背のびをして挑戦するもよし、演奏家が気分転換に使ってもよい。全てにおいてバランスが取れ、聞き飽きず、弾き手の層を特定しない。ロシェロールの圧倒的な強みは第一作からはっきりと打ち出されていたのである。やがてロシェロール作品は全米の学習者、指導者、愛好家、演奏家の幅広い支持を集め、40年間に100点以上に及ぶピアノ曲を発表し続けることとなった。
第1曲 パストラール Pastorale | Allegro, 3/4, G minor
第2曲 ミニ=マーチ Mini-March | Allegro, 4/4, C major
第3曲 白昼夢 Daydreams | Andante, 4/4, C minor
第4曲 キャラバン Caravan| Moderato, 4/4, D minor
第5曲 流れくだって Downstream | Moderato, 2/2, C minor
第6曲 フィエスタ Fiesta | Moderato, 4/4, C major