映画音楽の巨匠マンシーニの代表的な名曲をピアノソロ用にアレンジしたアルバムである。中級向き(intermediate)とされ、弾きやすい。もともとマンシーニはジュリアード音楽院に学び、カステルヌオーヴォ=テデスコやクジェネーク(クルシェネク)に師事するなど、伝統的なクラシックの教育で身につけた技法を創作の基盤としていた。ここでも、例えば「ハウ・スーン」など、ピアノではショパンを思わせるようなロマンティックな側面が強調され、クラシック畑の者にもアプローチしやすい。ロシェロールはこれら往年の名画をリアルタイムで映画館のスクリーンで観てきた世代に属する。映画の世界観を完全に咀嚼したうえで、歌詞のニュアンスのゆらぎまでをもすくい上げる繊細な筆致が光る。凡百のアレンジとは一線を画すゆえんであろう。「酒とバラの日々」ではとつとつとした語り口が大人の追憶の深み、甘み、苦みを見事に表現する。「ムーン・リバー」は極限まできりつめた音が無限の情感をかもし出す。余白の美学である。星の数ほどあるこの曲のアレンジの中でも特に味わい深いものとして挙げたい。
第1曲 子象の行進(『ハタリ!』より)Baby Elephant Walk (from the Paramount Picture HATARI!) [1962] Moderately fast, 4/4. C major
第2曲 シャレード(『シャレード』より)Charade (from Charade) [1963] Moderate Waltz, 3/4, G minor
第3曲 酒とバラの日々(『酒とバラの日々』より)Days of Wine and Roses (from Days of Wine and Roses) [1962] Lyrics by Johnny Mercer, Moderately, 4/4, F major
第4曲 ディア・ハート(『ディア・ハート』[日本未公開]より)Dear Heart (from Dear Heart) [1964] Moderate Waltz, 3/4, G major
第5曲 ハウ・スーン(NBCテレビ番組『リチャード・ブーン・ショー』主題歌)How Soon (Theme from The Richard Boone Show) [1964] Words by Al Stillman, Moderately slow, 2/2, E flat major
第6曲 クルーゾー警部のテーマ(『ピンク・パンサー3』より)Inspector Clouseau Theme (from The Pink Panther Strikes Again) [1976] Lively, 4/4, A minor
第7曲 今宵を楽しく(『ピンク・パンサー』より)It Had Better Be Tonight (from The Pink Panther) [1963] Moderate Samba, 2/2, G minor
第8曲 その日その時(『その日その時』より)Moment to Moment (from Moment to Moment) [1965] English Lyrics by Johnny Mercer, Italian Lyrics by Franco Migliacci, Slowly, tenderly, 2/2, A minor
第9曲 ムーン・リバー(『ティファニーで朝食を』より)Moon River (from the Paramount Picture Breakfast at Tiffany’s) [1961] Words by Johnny Mercer, Slowly, 3/4, D major