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モンポウ :夢のたたかい

Mompou, Federico:Combat del somni

作品概要

楽器編成:歌とピアノ 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:10分00秒

解説 (1)

執筆者 : 小阪 亜矢子 (3163文字)

更新日:2018年3月12日
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モンポウ声楽作品の最高傑作と言われる歌曲集。作曲者の近しい友人であった詩人ジョセプ・ジャネスの象徴詩的な世界観と、カタルーニャ語の柔らかな音声も相まって、声楽曲として他に類を見ない作品と言える。長らく 「1、あなたの上には花ばかり」「2、こよい同じ風が」「3、あなたは海のよう」の3曲がこの歌曲集として演奏されてきたが、近年では同じ詩集に作曲された「4、私の命を透き通らせて」及び、生前未出版の「5、私にあなたが見えているか、いまだにわからない」の2曲を合わせた5曲をまとめて演奏することもある。楽譜には番号の指定はなく、したがって演奏順はここで便宜的に振った番号順、もしくは、3を終曲とする1,2,4,5,3とされる。声域から見ると1、2、3は中音域高め、4は比較的高音域、5のみ低~中音域で書かれているため、1~3、と4及び5で別の歌手を想定してかかれた可能性も考えられる。 1、Damunt de tu només las flors あなたの上には花ばかり 全部で107小節あり、モンポウの歌曲の中では最も長い部類に入る。譜面を開いた段階で、ヘ短調の調子記号と、多くの臨時記号のフラットが目に入り、涙の滴が音画的に散りばめられているように見える。これは歌詞にある、愛する者を失った話者の悲しみの表現と考えてよいだろう。歌の旋律の冒頭をまずピアノが訥々と語り始める。同じ旋律がようやく言葉を発するも、1フレーズ歌うごとにritとa tempoがかけられ、言いよどむような、浮き上がるような揺らぎが生まれる。第1節ではほとんどの時間、ヘ短調のI,IV,Vの和音に留まっているが、còs(肉体)という単語で唐突にD音が鳴り響き、フラット(=涙)が減らされたことで輝きと浮遊感が得られる。ここでは大きなritがかけられ、和音が印象づけられる。この音は後半でllum(光)、nit(夜)という語に充てられていて、これらはこの詩の重要なキーワードだ。つまり話者の悲しみとは裏腹に、死者の魂は「肉体」を失ったことで「夜」を捨てることができ、永遠の「光」に包まれる、という思想が考えられる。第1節が終わると冒頭のモチーフを展開させた長い間奏があり、主調のヘ短調からフラットは次第に増えて変ロ短調→変ホ短調と転調していく。言葉で表しきれない話者の苦しみが吐露されるようだ。約1ページかけてヘ短調に戻ると、第2節が第1節と同じ音型で歌われる。さて、第1,2節の歌詞が情景描写的であるのに比べ、第3節では話者の実現し得ない願望が書かれている。ここで、先ほどの、転調を繰り返す1―2節間の間奏の上に第3節の歌詞が乗せられ、歌も高音域に代わる。間奏で先行して吐露された心情の内容が歌われるのだ。第4節では第1節と同じ旋律が繰り返されるが、最後の四小節でAs音がA音となりへ短調は否定され、死者の魂が解放されるかのように締めくくられる。 2、Aquesta nit un mateix vent こよい同じ風が ヘ短調やその近親調を前面に出していた第1曲に比べ、こちらには調子記号がなく、調性感の薄い作品。全編を通じて増音程が多用され、調性はますます揺るがされている。付点八分音符+十六分音符のリズムと、様々な音程の跳躍が、浮き沈みする波のような、聴き手を船酔いさせるような独特の効果を作っている。冒頭4小節間のピアノのメロディが5小節目から全音下げられて繰り返され、そのメロディに「途中乗車」するように歌が重ねられる。ピアノは自由に音域や音幅を変えながら付点のリズムを繰り返し、歌はその音に寄り添ったり離れたり休んだりしながら重なっていく。「こよい同じ風と/同じ一つの燃える帆が」と言う間はきっちりとピアノと歌が「同じ一つの音」すなわちユニゾンを作るところが印象的。その後はいかにもモンポウ/ジャネスらしい「透明さ」「純粋さ」への執着がみられ、波のない水面のような前打音つきの和音の上に「cristall(水晶)」「transparencia(透き通る)」「鏡(mirall)」と言った単語が乗せられる。歌詞の終わりは「私たちの空はあるいは(中略)永遠の夢かもしれない(中略)ため息をそなえた肉体ではないかもしれない」となっており、夢や観念の世界と物理的な現実が交錯する「夢のたたかい」のうちで、もっとも現実が否定される夢想的な1曲。 3、Jo et pressentia com la mar あなたは海のよう 表示はAndantinoだが十六分音符の勢いで、モンポウ歌曲の中ではかなりスピード感がある。調性感が強く、冒頭では6小節間、嬰ヘ短調の主和音から離れない。歌い出しはFis、H、Cis音からなる旋律だが、これはPastoralにも見られる。1フレーズごとにrit. a tempoがかけられ、やはり浮き上がるような効果を作っている。2曲目と同じようにピアノの音楽の流れに乗ったり離れたりしつつ、しかしピアノのみで語りかける部分はより少ない。ピアノは上行形のアルペジオで勢いを増しながら、前のめりな嬰ヘ短調からイ短調→ト短調と2小節ごとの目まぐるしい転調を繰り返す。しかし、「あなたを手にいれて知った/夢はあなたを捉えきれない」と夢を否定する部分でピアノは下行する。右手と左手が密集して緊迫する中、歌は「これまでのあなたの捉え方」について高音で否定し続ける。その後の間奏も同じ音型で、その上に民謡のような素朴な旋律が乗せられる。間奏がmolto espressivoとrit.で立ち止まりながら、過去を否定するように遠ざかったのち、歌は冒頭の旋律に戻る。冒頭で「海のようなあなたの予感がしていた」と歌った部分で「あなたは岸辺にとらわれた海ではない」、「あるいは巨大で自由な風のような」の部分では「あなたは空間に仕切られた風でもない」と前半の予感を半ば肯定、半ば否定していく。その後も2小節ごとに転調を繰り返し、夢の中でぬるま湯につかっていた人間が、嵐のような生身の相手に翻弄される姿を描き出す。 5、Ara no sé si et veig encar 私にあなたが見えているかいまだにわからない 不可思議なタイトルだが、歌詞を要約すると、「自分は相手を見てはいるが、それは表面的なことで、本質を掴み切れているとは思えない。その不自由さから逃れて相手と一体化したい」という内容だ。夢のたたかい1~3と比べ、ドイツ後期ロマン派のようなメロディックさと、プーランクの歌曲を思わせる高音からのオクターヴ下行跳躍が多用されている。また音域が低い。歌曲を多作する作曲家は一般に後期になるほど、歌詞を聞かせやすい低めの音域で書くようになるが、モンポウの場合も例外ではなかったようだ。調性は変ロ短調で始まり変ロ短調に終わるが、絶えず転調を繰り返す。前半は「veure(見る)」ということに固執していて、前述したような跳躍が登場するたびにrit.がかけられているが、他の曲に見られるそれに比べて粘りがあり、大きく振りかぶるような印象がある。また2ページ目にある上行するシークエンスでは、畳み掛けるようなaccel.が書かれており、心の動揺のようなものが見て取れる。後半では一見静止したように見えるピアノと歌は、協働して単三和音を分散したものを繰り返し作る。時折歌が単独でオクターヴ下降をする。このあたりの音の運びは2曲目に近く、「透明さ」への憧れがみられる。最後は歌い出しのテーマに戻るが、ピアノの右手に警笛あるいは動悸のように、あるいは何かと何かのあいだを素早く行き来するように、F音のオクターヴ跳躍のモチーフが繰り返され、最後までそれだけが残る。

執筆者: 小阪 亜矢子

楽章等 (3)

あなたの上には花ばかり

総演奏時間:4分30秒 

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こよい同じ風が

総演奏時間:3分20秒 

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あなたは海のよう

総演奏時間:2分10秒 

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