歌詞では明るい市の光景が語られているが、そこにつけられた音楽はやや寂しげに響く。それでもモンポウの他の曲に比べると陽気で、華やかなロ長調で書かれており、Allegro ritmicoの表示がある。しかし、それは目の前で色鮮やかに繰り広げられる市の描写というより、昔を懐かしんでいるような、どこか色褪せた思い出のような音楽だ。また、「市 (fira)」という単語は毎週の朝市のような日常的なものというより、巡業する見本市や遊園地、博覧会といった特別なものを指す。つまりこの歌は、幼い頃の特別な一日の記憶を語っているのだろう。冒頭は8分の3拍子、ピアノ前奏は打楽器風のFis音の連打で始まる。第1節はかなり元気よく、歌の旋律にピアノで五度と九度が足され、カラフルで不思議な世界を構築している。各小節の2拍目でHとFisの空虚五度が、やはり打楽器のように、あるいは田舎の民謡の伴奏のように響く。続く歌詞は「cutò de sucre (綿菓子)」「cavallets (回転木馬)」「brogit dels platerets (シンバルの音) 」とな描写だが、音域は下げられ、ピアノは控え目なトーンに変わり、風景をセピア色に加工するかのようだ。間奏では思い出したように第1節のテーマがにぎやかに現れる。中間部は子守唄や舟歌を思わせる8分の6拍子。夜が訪れ、市が終わっていく様子が分散和音でロマンティックに表される。また、歌では二連符と半音階の下降が繰り返され、段階的に暗くなる空を思わせる。最後には8分の3拍子に戻り、第1節のテーマがmeno mosso e piu nostalgicoで再現され、楽しい市の賑わいは思い出の淵に沈んでいく。