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ブーランジェ, ナディア :チェロとピアノのための3つの作品 変ホ短調

Boulanger, Nadia:3 Pieces for cello and piano es-moll

作品概要

楽曲ID:19581
出版年:1915年 
楽器編成:室内楽 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:7分10秒
著作権:保護期間中

解説 (1)

成立背景 : 佐藤 祐子 (2419文字)

更新日:2018年3月12日
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これは、1915年にフランスのHEUGEL社から出版された希少なナディア・ブーランジェの作品の一つである。1913年、6才年下の妹リリーは、父親であるエルネスト・ブーランジェも1835年若干20才で受賞した後、パリオペラコミック座の作曲家として成功を収めた《ローマ賞》一等賞を女性作曲家としては初めて受賞する。ナディア自身も1906年と翌年に二度の失敗を繰り返しながらも、彼女にとってこの一等賞をとることはまさに悲願であった。1900年、十三才で父親をなくしてからわずか三、四年後にはパリ音楽院の和声、フーガ、作曲、オルガン、ピアノ伴奏のクラスで一等賞を取った彼女の秀才ぶりは、師であるフォーレも誰もが認めていたが、彼女の後ろ楯となりブーランジェ一家を支えた大ピアニストのラウル・ピュノーの励ましによって1908年に再度試みた。が、結果はまたも二等賞に終わる。才能豊かながら病弱な妹リリーと四二才で未亡人になった母親(ライサ・ブーランジェ、ロシアの王女、父はロシアのPrince.IvanMischetzky)声楽をたしなむ教養豊かな女性、ナディアとリリーを音楽家に育てた)を支える一家の要として、18才で多くの演奏会をこなし、自宅でレッスンや音楽分析のクラスを行い、すでに多忙をきわめたナディアではあったが、さらなる将来の保証をためにはぜひとも大賞を受賞したいと考えたのである。  《ローマ賞》は、1663年にコルベ-ルにより絵画、建築、彫刻、版画の学ぶ若手芸術家にローマへの留学をして成功するための登竜門として設立された。その組織はローマ・ポルケーゼ公園内の旧メディチ家の館内に設置された王立アカデミー](在ローマフランス・アカデミーである。1803年には若手作曲家の登竜門として芸術一般の対象に[音楽賞]も加えられた。予選では対位法、和声、フ-ガの学術的な基礎能力を試された後、本撰ではパリ音楽院の教授等によって指定されたテキストに単声ないし多声の歌唱とオーケストラのための曲を作曲するために4~5週間の合宿機会が与えられる。本撰を通過した作品はまずパリ音楽院の教授によって審査の後、フランス芸術アカデミー会員全員の投票を経て順位が決まる。一等賞受賞者は二年間、二等賞受賞者はそれより短期間、旧メディチ家の館に滞在してさらに研鑽を積み、作品の製作に励み、作品発表の場と楽譜出版の機会を与えられる。かのラヴェルが5回応募しながらも二等賞にとどまったなど波乱も多いが、その理由の一つには最終決定がアカデミー会員(一般芸術家全員)によって行われ、その40人中音楽家が5人だったことも理由にあげられている。だが、ナディア・ブーランジェの場合、失敗の原因は彼女にあった。四声の歌唱のためのフーガの作曲課題に対して弦楽四重奏のための作品を提出したからである。  なぜ、彼女はそのようなことをしたのだろうかー  意図的に撹乱させようとしたわけではない、と釈明の手紙を書いたものの当時の審査員サン=サーンスはナディアに怒り心頭の抗議の手紙を書いている。この後二人の間には確執がうまれるが、後年には和解している。そのサン=サーンス自身も1852年1864年の二度の試みは二等賞に終わっている。  さて、この作品はローマ賞の苦い経験から五年後、妹リリーの一等賞受賞の前後1914年以後に書かれている短調で書かれ、全体に暗く重苦しい雰囲気が立ち込めている。1913年一月には保護者のような存在であったピュノーが一緒に出掛けた巡業先のロシアで急死した。母の祖国で一人残された彼女の衝撃はいかばかりであったか…そして自分のル-ツをその地に見いだしたのだろうか…短調ばかりで一見そこには和声的な調性の脈絡はないかに感じられる。テトラコードの短い旋法のモチーフを繰り返しながら、転調していく。古代の単旋法によるユニゾンのシンプルな対位法的なカノンの動きである。クロマティックによる転調、エンハーモ二ーによる転調を行い、そこにちゃんと脈絡が展開していく。その主体となっているのは古代の旋法、音程によるシンプルな音楽語法である。万物がカオスの世界から始まって秩序をもつ体系がうまれていく、音楽の生まれでる源、その歴史を遡るような気がしとくる。そして、有史前のギリシアの人々によって万物のもとは数であり、音の共鳴と振動数の数値比から導きだされた協和音の音程を源として、その配列によって様々な表情の旋法がうまれる歴史を見る気がする。この語法は2000年経った今も変わらず、さらに無限に進化する可能性を持っている。我々東洋人にも民謡などで馴染み深いペンタトニックはスコットランドの音楽にも使われている。ギリシア人は音楽のなかに個々の性格を見いだし、それが道徳的性質、永続的な人間的な性格に影響を及ぼすとして体系付け、ethos論によって音楽(ギリシャ語のムジケ)は詩や舞踏と同じ文芸的な芸術とした。  ピュタゴラスは数学者であり哲学者であり、一方では輪廻,転生からのがれるために現世で罪を悔い改めるための特別な戒律をもつ宗教もつくった。釈迦の誕生より一世紀前である。人間の永続的な性格は今も昔も万国共通、何も変わらないように見える。日本で第九が年末に演奏されるようになったきっかけは、戦時中捕虜として捕らえられ日本の収容所にいたドイツ兵が日本人に紹介したからだそうだ。 べートーヴェンはキリスト教徒ではないため、最近の西欧では余り人気がないというーだが、フランス人はビールよりワイン党だが、ベートーヴェンやモーツァルトは大好きである。ブーランジェがそれを聞いたら、顔をゆがめてきっとこうおっしゃるに違いない…  「まあ、あなたたち!  べートーヴェンのピアノソナタop.110のフーガを聞いて、あるいはハンマークラヴィアを  聞いて、そこにあなたは、神を感じませんか!!」

執筆者: 佐藤 祐子

楽章等 (3)

第1番

調:変ホ短調  総演奏時間:2分40秒 

解説0

楽譜0

編曲0

第2番

調:イ短調  総演奏時間:1分40秒 

解説0

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編曲0

第3番

調:嬰ハ短調  総演奏時間:2分50秒 

解説0

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編曲0

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