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ベルティーニ :芸術的大練習曲集 Op.122

Bertini, Henri:Grandes études artistiques Op.122

作品概要

出版年:1838年 
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:練習曲

解説 (1)

執筆者 : 上田 泰史  (2781文字)

更新日:2011年5月13日
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練習曲のタイトルに「芸術的」という形容詞を用いたのはおそらく彼が最初である。当時、練習曲集は「性格的」、「旋律的」、「演奏会用」、「サロン用」など、その作品の性質や用途を示す言葉と共に出版されることが多かった。これらの言葉は購買者に自作品の実用的な特性を伝えたり、作曲者がどのような観点からエチュードというジャンルにアプローチしたのかを示す重要なメッセージでもある。「芸術的」という言葉は、「エチュード」という言葉のもつ「機械的な指の訓練」というネガティヴなニュアンスと鋭いコントラストをなしている。この曲集で、ベルティーニは各曲にトリルや連打など個別の練習音型を、熟練の作曲手腕と豊かな着想と調和させている。「芸術的練習曲」とは、つまり実用性という範疇を越えて、楽曲の構成や着想の展開において価値があるような練習曲、という意味と解することができるだろう。

25曲からなるこの練習曲集は各曲が6頁前後で、長い曲では10頁に及び、しかもテンポが比較的ゆったりとしているため、通演のためには優に演奏会一回分の時間を要する。この規模ゆえか、彼の練習曲中最大の労作が最もマイナーなもののひとつに数えられるのは皮肉である。それぞれの曲は明確なテクニック上の目的を持ち、中には容易ならざる跳躍を含むものがあるが、基本的に音の層は薄く、今後「エチュード大観」に登場するアルカンやラヴィーナ、リストが見せるような過激さは見られない。その代り、練習のテーマとなる一つないし複数の決まった音型を用いながら着想はゆったりと展開される。主要な音型は展開のなかで、入念な配慮のもと多様な仕方で両手に配され、巧みな転調によって豊かな変化がもたらされる。

ベルティーニは静かに曲を始めることを好んだ。ほぼ全ての曲はpで開始され、ffで始まるのは第4、12、17番の3曲のみである。喧騒を嫌う彼の特性からだろうか、いずれの曲もどこかひと気のなさを感じさせる。楽譜にmp, mfといった中庸な強弱記号をごく稀にしか用いないのは19世紀の作曲家としては珍しい。

No. 1 Lento 変ホ長調

左手のアルペッジョの練習曲。右手は息の長い旋律を静かに歌う。

No. 2 Allegro moderato  ヘ長調

アルペッジョと左手の伴奏の跳躍を主な技術上の目標とする。中間部でアルペッジョは左手に移行し劇的なエピソードを形作る。

No. 3 Moderato 変ホ長調

片手で分散和音と旋律を同時に奏でる多声的パッセージと、手の交差の練習曲。一貫した伴奏音型は波打つ水面を思わせる。

No. 4 Allegro moderato ホ短調

半音階と連打の練習曲。この曲集では例外的に情熱的な推進力を持つ一曲。

No. 5 Allegro ハ短調

伴奏を左右の手で交互に演奏する練習曲。中間部ではより遠い調性への逸脱が繰り返される。再現部では旋律に装飾が加えられる。

No. 6 Presto 変イ長調

和音連打とオクターヴの練習曲。中間部ではオクターヴの音型が左右の手で対話的に扱われ、一時的に遠隔調のホ長調へ移行する。

No. 7 Moderato ヘ長調

2オクターヴの音程にまたがる大きなアルペッジョの練習曲。右手は第1番同様、無言歌風のゆったりとした旋律を奏でる。

No. 8 Presto 変ホ長調

オクターヴと左手の跳躍の練習曲。勇壮な舞曲。

No. 9 Moderato scherzando ロ短調

オクターヴと跳躍の練習曲。手のひらを返すようにして跳躍し、中声部の旋律が奏でられる。

No. 10 Allegro moderato 変ホ短調

左右の手で交互に連打の音型を奏する練習曲。ロ長調の中間部は雰囲気を一変させトリルをともなうリズミックなパッセージが置かれる。

No. 11 Allegro moderato 嬰ハ長調

3オクターヴに亘る広い音域の分散和音の練習曲。中間部では分散和音は左手に移行し、右手は明確な旋律を奏でる。

No. 12 Allegro con brio ハ長調

連続する六度、五度、四度等の練習曲。これらの音程はほぼ一貫して右手が担う。

No. 13 Allegro moderato ホ長調

手の交差の練習曲。右手と左手が急速に交代しながら交互に旋律の音を取り合う。

No. 14 Allegretto 嬰ハ短調-嬰ハ長調

急速なオクターヴ連打の練習曲。軽やかな右手のオクターヴ音型は中間部で左手に移る。

No. 15 Lento religioso 変イ短調

トレモロの練習曲。トレモロが生み出す神秘的な靄の中にオクターヴの旋律が浮かび上がる。中間部では音の層がさらに厚くなり再現部の直前で劇的なクライマックスを迎える。

No. 16 Andante イ長調

トリルの練習曲。左右の手に、二拍おきにトリルが配置され、一貫した音型の中で楽想が巧みに展開される。

No. 17 Allegro vivace spiritoso 変イ長調

手の跳躍と和音の練習曲。中間部はオクターヴの付点リズムが両手に交互に現れる。

No. 18 Allegro moderato 変ロ短調

分散和音の中に縫いこまれた旋律線を際立たせるアクセントの練習曲。

No. 19 Andante 変ニ長調

大きく手を開いて3オクターヴにまたがる分散和音を演奏し、旋律を伴奏する練習曲。中間部では半音階のモチーフが現れる。再現部は伴奏型が変化し、旋律には装飾が施される。

No. 20 Allegretto ロ短調

ジグザグ型の分散和音と歌唱的な旋律の練習曲。分散和音の音型は順次左手と右手の双方に適用され、最後に両手でこれを演奏する。

No. 21 Lento-Allegretto poco andante ホ長調

伴奏パートを右手と左手で交互に取り合う練習曲。高音域の旋律パート、中声部の伴奏和音パート、低音域のバス・パートの三層が、2手で巧みに弾き分けられる。再現部の伴奏パートでは同時に打鍵される冒頭の和音がアルペッジョに変る。

No. 22 Allegro moderato 変ロ長調

連続的にポジションを変更するアルペッジョの練習曲。

No. 23 Allegretto agitato 嬰ハ短調

右手の歌唱的な旋律と左手のオクターヴ連打、跳躍の練習曲。中間部とコーダは嬰ハ長調に転調する。

No. 24 Allegro moderato 嬰ヘ短調

同じポジションで急速に反復されるアルペッジョの伴奏と歌唱的な旋律の練習曲。一貫して同じフィギュレーションによるが、自在な転調によって多彩な変化が与えられる。

No. 25 Allegretto quasi andante ハ長調

オクターヴ連打の練習曲。楽譜は3段ないし4段に分かれており、「譜読み」の練習曲をも兼ねる。

執筆者: 上田 泰史 
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