スタマティ :古風なジャンルのシチリアーノ Op.28
Stamaty, Camille Marie:Sicilienne dans le genre ancien Op.28
執筆者 : 上田 泰史 (478文字)
大衆娯楽としてダンス音楽が流行した第二帝政期、急速に増加した裕福な市民層を教化する目的で18世紀以前の「古典音楽」が大量に出版されるようになる。出版社は娯楽として量産されるようになった大衆向けの舞曲や簡易なオペラの主題によるパラフレーズと差別化を図る目的で、モーツァルト、ベートーヴェン、ウェーバーなどドイツ・オーストリアの過去の作曲家が残した作品に時代を超越する不滅の価値を与えた。本作は1856年頃、ウジェール社が始めた「現代の古典」というシリーズの3曲目にリストされている作品である。存命作曲家による過去の様式で書かれた作品を集めたこのシリーズには、チェルニー、アルカン、ヘラーなど少なくとも23名の作曲家が楽曲を提供している。バッハの前奏曲に旋律を付けた有名なグノーの《アヴェ・マリア》もこのシリーズで出版された作品である。
スタマティはバロック時代に流行した舞曲シチリアーノを選び、ホ長調の中間部を持つ簡潔な形式で書いている。古典音楽の簡潔さを装う冒頭の主題が再び回帰するとき、伴奏は音域を拡大しながらいっそう複雑な19世紀的ピアノ書法へと変化する
古風なジャンルのシチリアーノ
Sicilienne dans le genre ancien, Op. 25