初版 : Paris, Heugel et Cie, 1871 献呈 : A Mlle Alice PEREIRE
この作品のフランス初版には、母と子どもたちが集まり、一人の子が本を皆に読み聞かせる場面が描かれている。この曲はこうした当時の「無邪気」な(しかし教育的な)ブルジョアの家庭的日常を描いた一枚の絵画といえる。ラヴィーナには、自身の生徒でL. ビドーとの間にできた2人の愛子まなご(まなご)がいた。レオン(1852~1870)とエンマ(1853~1902以降)である。実は、この作品を出版する前年、ラヴィーナは一人息子のレオンを亡くしている。この小さな音楽的絵画からは子どものいる家庭生活を愛おしむ作曲者の心情が伝わってくるようだ。
ミュゼット風のオスティナートに乗せた田舎風の旋律を前奏で聴いたあと、19小節目から主題が始まる。主題を弾くときにはスラーで示されたフレーズとスタッカート(第22, 26小節等)の対比を付けることが繊細なニュアンスを出すために大切だ。左手とのバランスを考え、かつpで対比をコントロールするのは存外難しいので、とても良い練習になる。40~41小節に現れるテヌート・スタッカートの記号は、各音の間をしっかりと切るが、音の長さは十分に保つ。この記号のほかにも特に強調する山型のアクセント記号(^)があるので、それぞれの指示の意味を考えながら違いを出して弾くよう心がけよう。
91小節目からの中間部では序奏のモチーフがハ長調で現れる。純朴な8小節のメロディが繰り替えされるが、4小節おきに強弱が変化し、ウナ・コルダ、トレ・コルデの交替もある。単調にならによう十分に音色の変化を意識する必要がある。
143小節から主題が回帰するが、曲の最後で173小節目で主題が繰り返されるときに、メロディが一端途切れる面白い場面がある(第179小節)。言いよどみの後に物語は続くが、184小節目で再び序奏のモチーフが堂々と登場し、「物語」は思いがけない結末を向かえ、最後に再び平穏な主題に帰って(第190小節)物語は「ウナ・コルダ」で静かに、「消えいくように(perdendosi)」閉じられる。最後の2つの和音ffの和音(199~200小節)は子どもたちが「おしまい!」と声を合わせて叫んでいるようだ。 (注1)アンリ・ラヴィーナ『ラヴィーナ・ピアノ曲集』、上田泰史校訂、東京:カワイ出版、39頁。
※この解説は2015年に出版されたアンリ・ラヴィーナ『ラヴィーナ・ピアノ曲集』(カワイ出版, 上田泰史校訂)の解説に基づいています。
楽譜情報 カワイ出版ONLINE『ラヴィーナ・ピアノ曲集』