作品概要
初出版社:Alphonse Leduc
献呈先:Fille d'Henri Ravina
楽器編成:ピアノ独奏曲
ジャンル:練習曲
著作権:パブリック・ドメイン
解説 (1)
総説 : 上田 泰史
(969 文字)
更新日:2018年3月12日
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総説 : 上田 泰史 (969 文字)
初版 : Paris, Heugel, 1865 献呈 : À ma fille (私の娘に)
このエチュード集はピアノの上達を願って12歳ころのエンマに捧げられた作品。彼女は長じて出版社ルデュックの経営者と結婚する。
いずれも様々な演奏テクニックと曲のスタイルや性格を同時に学習できるように書かれており、タイトルにある「心地よい響きの」という言葉には、テクニックの向上に役だつ上に、耳をも愉しませるというニュアンスがこめられている。
◇第11番変ロ短調 ラルゴ・レリジョーゾ トレモロの練習曲。 楽想表示は「宗教的なラルゴ(Largo religioso)」とあるので、厳粛な性格が求められている。冒頭と末尾の4小節は弦楽4部(ヴァイオリン2パート、ヴィオラ、チェロ)をイメージして各パートの小さなクレッシェンドやデクレッシェンドを表現する。4小節目の左手でトレモロの断片が出てくるが、これはティンパニを思い浮かべるとよいだろう。ラヴィーナの音楽にはしばしばオーケストラや室内楽の響きを想起させるものがある。日ごろからピアノ以外のジャンルの音楽にも親しむことは、19世紀のピアノ音楽のイメージを的確に把握し、音色豊かに弾くためにとても有益。 トレモロを弾く際には、全ての音をきちんと弾くのではなく、鍵盤が底まで下りきらないタッチや、上まで上がりきらないタッチを上手に混ぜて表情を作ることが大切。但し、拍節感が曖昧にならないよう注意する。
◇第15番変ホ長調 アンダンティーノ・アフェットゥオーゾ 舞踏的な性格の練習曲で、3度の重音の敏捷な演奏が技術上の課題だ。冒頭の主要モチーフはホルン風の響きをもっている。右手の付点リズムは、付点8分音符+16分音符と8分音符+16休符+16分音符の2種類がある。休符が入る場合はペダルを放してしっかりと切って短い間を作ることで曲の流れに変化が出る。楽譜中の注釈に示す通り、ラヴィーナのメトロノーム・テンポは重音の練習としては速すぎるように思えるので、軽快さが失われない程度に速度を落として弾くのがよいだろう。
※この解説は2015年に出版されたアンリ・ラヴィーナ『ラヴィーナ・ピアノ曲集』(カワイ出版, 上田泰史校訂)の解説に基づいています。