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プロコフィエフ :風刺(サルカズム) Op.17

Prokof'ev, Sergei Sergeevich:Sarcasms Op.17

作品概要

楽曲ID:2659
作曲年:1912年 
出版年:1916年 
初出版社:Jurgenson
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:12分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

解説 : 山本 明尚 (1724文字)

更新日:2020年12月24日
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総説

プロコフィエフが《サルカズム》を作曲したのは、20代前半にあたる1912年から1914年ごろのことで、ペテルブルク音楽院作曲科を1911年に卒業し、新進気鋭の若手作曲家の一人として彼が帝政ロシア楽壇に羽ばたいた時期である。《サルカズム》という題名は、「当てこすり」や「嘲笑」といった意味である。それが物語るとおり、曲集の5曲はすべて、ピアノ音楽の慣習や伝統を挑発するような先鋭的でグロテスクな響きと構築を有している。この特徴により引き起こされた人々の動揺を、作曲者自身が友人ミャスコーフスキイに宛てた1915年5月29日付の手紙で鮮やかに描き出している。いわく、「人々が頭を抱えている。ある者は耳を塞ぐために、またある者は感動を表明するために、またある者はかつて大いに期待されていた、いまや無惨な作曲家を哀れむために」。

第1曲 Tempestoso

1912年に作曲された。短い序奏は、歴史的に「悪魔の音程」と呼ばれていた三全音が轟々と鳴り響く衝撃的なもの。それに続く劇的な下行跳躍から始まるのは、和声的に不協和、リズム的にも不揃いで、断片的で荒々しく縦横無尽に展開される主題である。

中間部は、冒頭と明瞭に対比されている。上行の音階の順次進行を基調としているほか、リズムの面でも和声の面でも冒頭には見られなかった広がりと奥行き、情感を感じ取ることができる。

第2曲 Allegro rubato

1913年の作。「ルバート」と指示されている揺れ動くテンポや、和声とアルペッジョが歯切れよく往来するような構成が、協奏曲の即興的なカデンツァを思い起こさせる。譜面をみると、並行五度による和声が印象派を想起させ、スクリャービンとの和声語法のアプローチとの類似性を指摘する者もいる。しかし、「ペダルを用いず」と指示されている他、実際に響きを耳にすると、対斜や不協和音程の衝突をより強調するように構築されており、意図的にぎこちなさが演出されているように思われる。

第3曲 Allegro precipitato

1913年の作。後に彼が自作品を語った5つの「路線」に従うと、強い感情を表現するための言語の探求が基になった「モーター的」路線に分類されるであろう作風。執拗に8分音符による伴奏が打ち鳴らされる中、半音階的なスタッカートによる旋律が奏でられる。譜表間で調号の異なる、いわゆる複調が用いられていることも特徴的である。

次第にボルテージを上げながら到達する中間部には、「歌唱的に」と指示されるように伸びやかで表現に富む旋律が出現する。同時代人のなかにはこの部分にとりわけ「素晴らしい叙情性」(詩人バリモントの言)を読み取るものもいた。唐突に主部の「モーター的」な曲想に戻ると、徐々にスピードを緩めて駆動を止める。

第4曲 Smanioso

1914年に作曲された。標示は「荒れ狂って」の意。前半部分の断片的で唐突な身振りの移り変わりや、音程の振り幅が大きい旋律線、またピアニストに要求される忙しない声部内での手の交代は、劇的で鮮烈な印象を与える。楽曲後半は激しく執拗な和音連打を基調としており、前半の衝撃的な音像を保ちながら、徐々に静まっていく。テンポとデュナーミクが落ちついたのち、前半の旋律が高音部で短く再現されて終わる。

第5曲 Precipitosissimo

前曲と同じく、1914年の作品。作曲家自身によると、曲集の中で本曲だけが音楽外的な標題をもつという。いわく、「我々は時おり、何かを悪意をもって、無作法に、無責任にあざ笑うことがある。しかし、じっとよく見つめてみると、自身が笑ったものがどんなに哀れで、その取るに足らなさがいかに惨めで感動的ですらあることに気づく。すると我々は自分自身の笑いが恐ろしくなる。笑い声は頭の中に響き渡っているのだが、このとき聞いている自身の笑いは、我々に向けられている嘲笑なのである」(1916年10月28日の日記より引用)。変拍子による激しい和音連打による序奏から始まるが、不協和ながら静かで素朴なテクスチャへと急激に変化する。コーダでは冒頭の和音連打が細かく分断された異様な形に変容し、不気味な低音によって閉じられる。

執筆者: 山本 明尚

楽章等 (5)

嵐のように Op.17-1

総演奏時間:2分30秒 

楽譜0

編曲0

間のびしたアレグロ Op.17-2

総演奏時間:1分30秒 

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せき立てるアレグロ Op.17-3

総演奏時間:2分00秒 

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狂気したように Op.17-4

総演奏時間:3分30秒 

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激しくせき立てるように Op.17-5

総演奏時間:2分30秒 

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