Allegretto quasi Andante アンダンテ(歩く速さ)に近いアレグレット(やや快速に)で
Con una certa espressione parlante 或る語りかけるような表情で
複合三部形式。中間部(第21小節目~)が主部の素材の展開となっているため、全体の統一感があり、大変趣味良くまとまった小品。懐古的な雰囲気が漂っており、幼い子どものベッドのそばで、母親が物語の読み聞かせをしている情景が思い浮かぶ。コーダの末尾は、無垢な子どもが寝入っていくようで、幸福な感情に満たされる。「或る語りかけるような表情で」と冒頭に示されている通り、歌曲的な旋律ではなく、叙唱(レチタティーヴォ recitativo)に近い表現で書かれている(同じ年に出版されたピアノ・ソナタ第17番ニ短調テンペスト」作品31-2には、まさにレチタティーヴォそのものがある)。ベートーヴェンは言葉なしに音のみで語ることが可能であり、むしろ言葉よりも雄弁に音で語る。