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エステン :ワルツ・春(連弾)

Oesten, Theodor:Springtime Waltz

作品概要

楽曲ID:20148
楽器編成:ピアノ合奏曲 
ジャンル:種々の作品
総演奏時間:1分10秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

演奏のヒント : 伊賀 あゆみ (2086文字)

更新日:2018年3月12日
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■はじめに ~連弾をする上で大切なこととは~  連弾は1台のピアノで、異なる二人の個性を調和させ、ハーモニーを創りあげていきます。演奏にあたり、二人の奏者の人格やテクニックに差異があるために、音を揃えることや、身体の動きをシンクロさせることに意識すぎる傾向があります。縦のラインや音量のバランスは整っているのに、全体の響きや音楽のまとまりが伝わってこない、もしくは機械的に聴こえてしまうといった演奏に陥りやすいのです。連弾は4本の手による室内楽であることに着目し、如何に二人の音楽的な個性を結び付けていくかを考える必要があります。そのために大切なことは、音楽に対して共通のイメージやアイディアを持つことです。テンポや音楽の特徴、フレージング、音量のバランス、ペダリングについて二人で共有することで、演奏中にも言葉なしで意志を伝えられるようになります。また相手の反応にすばやく応えられるような感覚を磨くことも大切です。譜例は、スコア形式で掲載しましたが、相手パートも知りながら、音楽全体を視覚的に把握するためにもスコア形式の楽譜を作ることをお勧めします。曲中の途中からでも、その箇所を指させば、すぐに弾き始められますので便利です。二人の個性の良さを倍増させられる、連弾を目指してください。

 ■作曲者、作品について  アメリカの作曲家グレンダ・オースティンはギロックの愛弟子で、叙情的で美しいハーモニー、情景が目に浮かぶワルツの数々を作曲しています。7つのワルツをまとめた『叙情ワルツ曲集』の一曲である『ワルツ・春』は、2009年にピアノソロのために作曲され、その後に連弾版が作られました。連弾版では、ソロ版に無い、音や旋律が加えられており、より色彩豊かになった音の情景の中で、二人のワルツを踊ることができます。

 ■作曲者が音で描いた情景とは  『叙情ワルツ曲集』(全音楽譜出版社)には、オースティンによる曲目解説と演奏アドヴァイスが載っています。作曲者が曲に込めた想いを知ることは、音楽作りへの大きなヒントとなりますので役立ててください。

 「春になるとつぼみが芽を出し、花がほころび、春の匂いが漂い始めます。鳥や蝶々は温かい太陽の光を待ち望み、自然界のすべてが目をさまします。春は心がうきうきします。」  演奏へのアドヴァイスとしては、次のように示しています。 「表情記号Flowing,with lilt (軽快に、流れるように)は、ワルツの波に乗って揺れるように弾きます。ブランコに揺られるようにスウィングして弾いてください。 rit. A tempoとpoco rit. A tempoがひんぱんに出てきますので、それらのテンポの変化にも注意してください。リズムの波はもちろん、感情の波にも乘りましょう。」

 ■作品の構成  各部は8小節単位で、前奏、A 〈a+b〉、A´〈a+b´〉、コーダからなる2部形式。 前奏:第1~8小節 A〈a+b〉:第9~24小節(aとbは、各8小節単位) A´〈a+b´〉:第25~40小節(aとb´は、各8小節単位) コーダ:第40~48小節

 ■演奏のポイント  春の訪れを喜び、色鮮やかな情景を感じられる、3拍子の軽やかなワルツです。拍感を常に意識して、3拍目が重くならないように。4小節を1フレーズで感じ、2小節単位でブランコに揺られるような拍の波に乗りましょう。曲を通して半音進行が多く、それにより音楽による揺れも表現されます。第9小節~は、プリモとセコンドの強弱の違いに注目し、音量のバランスだけでなくハーモニーがまとまるような音作りを目指しましょう。プリモの左手とセコンドだけで弾くと、二人の音色を調和させる練習にもなりますし、ハーモニーの変化も聴き合えます。この時、セコンドは全体の響きを敏感に聴きながら、ペダルを踏みましょう。また、セコンドは、プリモの歌う呼吸を感じ、一緒に歌う気持ちで伴奏すると一体感がでてきます。第23小節のPoco rit、第25小節のA tempoなどテンポに変化が起こる箇所では、二人でメロディーを歌うことでテンポ感を共有して演奏できるようになります。A´の再現部では、プリモとセコンドのやりとりが活発になり、音と音の対話が楽しめます。より豊かに変化するハーモニーの色合いを表現しましょう。第39小節でようやく全終止となり、これまでの物語がここで落ち着きます。Codaの第43小節では、春の訪れを喜ぶ、軽やかな8分音符のメロディーが再び登場し一気に曲を締めくくります。最後の音を一緒に切った後の休符でも、ワルツのリズムを感じながら、余韻を味わいましょう。曲中の休符には、音楽を躍動させ、浮遊感をだせるような効果があります。休符は“音の無い音”であることを理解しながら、作曲家はどのような表現を求めているのか考えてみましょう。二人で春の情景をイメージし、各場面から沸き立つ感情をどのように音や響にするか、アイディアを出し合うことは大切な過程です。気持ちと呼吸が合わさると、音も自然と揃っていきます。

執筆者: 伊賀 あゆみ
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