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ベートーヴェン :ヴァイオリン・ソナタ 第5番「春」 ヘ長調 Op.24

Beethoven, Ludwig van:Sonate für Klavier und Violine Nr.5 "Frühling" F-Dur Op.24

作品概要

楽曲ID:15925
作曲年:1800年 
出版年:1801年 
初出版社:Mollo
献呈先:モーリツ・ヨハン・クリスティアン・フォン・フリース伯爵(Moritz Johann Christian Graf von Fries)
楽器編成:室内楽 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:23分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

解説 : 丸山 瑶子 (1996文字)

更新日:2023年12月19日
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本作品はベートーヴェンが最初のヴァイオリン・ソナタ集op. 12(1797–98年)から数年後、初めての弦楽四重奏曲や交響曲の作曲を経たのちに作られた。Op. 23が当時のヴァイオリン・ソナタによくある3楽章構成だったのに対してop. 24はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの中では珍しく4楽章構成に拡大し、この点に次のop. 30, no. 2の兆しが見られるかもしれない。

 Op. 12が3曲セットだったのに対し、op. 23とop. 24は当初2曲のセットとして考えられていた(ベートーヴェンはすでにピアノ・ソナタop. 14も2曲セットで出版している)。このことは作曲時期だけではなく、op. 24の初版の表紙に「23」の番号が見られるほか、献呈先がどちらも音楽パトロンのフリース伯爵ということからも示唆される。

現在、このソナタは「春」という通称で親しまれているが、呼び名がベートーヴェンに由来するという証拠もなければ初版にもこの言葉はない。ロックウッドによれば、「春」と呼ばれ始めたのは1860年頃、つまりベートーヴェンの死後になってからである。その所以も作曲家の文言や伝記的な事項にあるのではなく、楽曲の親しみやすく愛らしい雰囲気からだろうと推測されている。

第1楽章

ヴァイオリンが最初に旋律声部を担い、前の時代の「伴奏付き鍵盤ソナタ」とは完全に異なるオブリガート・ヴァイオリンとピアノのための二重奏ソナタであることが曲の冒頭からはっきりと示される。

形式面で注目される点はいくつかある。第一に、アレグロのソナタ形式ではあるが主要主題は快活、副主題は歌唱的という典型とは逆で、主要主題が優美で副主題が活発という性格になっている。第二の点は展開部とコーダの比重である。両者はほぼ同じ長さがあり、展開部は副主題の素材を用いた単純な音形の繰り返しで短く済まされるのに対し、コーダは主要主題の冒頭旋律が中心的というように、二つのセクションが対等になっているのである。この点はモーツァルト世代とは異なる傾向といえよう。コーダに入る時の半音進行(F→Fis)による転調も、目を醒させるような衝撃を与える。

第2楽章

敢えて特定の形式に当て嵌めるのは不適では、と思えるほど比較的自由な形式で書かれている。前半では楽章冒頭の主題がピアノとヴァイオリンそれぞれを旋律声部として合計4回現れるが、別の楽想を挟んだ後、ピアノによる3回目の主題提示からもとの旋律が変奏され、さらにヴァイオリンが主題を変奏する際には変ロ短調に転調して始まり、次第に主題から離れていく。異名同音を用いながら転調が続けられ、ようやく主調変ロ長調に戻ってくると、冒頭主題旋律第1小節目に由来する16分音符の動機が繰り返される。楽章の終わりでは、和声が次々に移り変わる中盤の後で主調を強調するように、主調のドミナントとトニックの和音が繰り返される。

楽器法の観点から言えば、ヴァイオリンがピアノと交替で旋律を奏でたり2つの楽器の「対話」のような短い動機のやり取りによって音楽が形成されているだけでなく、中盤の短調という重要な転調でヴァイオリンが主声部になっている点からも、いかにヴァイオリン声部が要として機能しているかがわかる。

第3楽章

複合三部形式のスケルツォ楽章だが、慣習とは異なりスケルツォ主部の前半は「繰り返しなし」と指示されている。一方、ダ・カーポについて「繰り返しなし Senza replica」の指示はない。トリオは16小節と実に短く、前半は属音の保続音上でピアノとヴァイオリンが3度の平行にほぼ終止するという極端にシンプルな作りである。形式や和声に凝るというより、むしろ歯切れ良いスケルツォ主部との響きのコントラストに主眼があるのでは、と思わせる。

第4楽章

優美な主題で始まる第1楽章と対を成すような朗らかな主題で展開されるロンド。旋律を担う順番が第1楽章とは逆でピアノ→ヴァイオリンとなっているのも、両端楽章を対として釣り合いを与えようという計らいか。ロンド主題の2分音符→刺繍音→下行音形という旋律線が第1楽章の冒頭主題とよく似ているのも注目される。

ピアノとヴァイオリンの平等性に着目すると、旋律声部を担う順番はロンド主題でピアノが先行するのに対し、エピソードではヴァイオリンが先行する。中盤のニ短調のエピソードでは協奏曲などにも見られるような技巧的な三連符が連なる。また、ロンド主題がピアノによって示される時、楽章冒頭ではピアノのソロであるが、楽章内でピアノ声部に回帰するごとに次第にヴァイオリンの関与が増してくる。そして遂に最後にロンド主題全体が現れる時にはピアノの軽やかな分散和音を背景にヴァイオリンが主題旋律を変奏している。このように一連の主題回帰には、主題における二つの楽器の役割の変遷が見て取れるのである。

執筆者: 丸山 瑶子

楽章等 (4)

第1楽章

総演奏時間:9分30秒 

第2楽章

総演奏時間:6分00秒 

楽譜0

編曲0

第3楽章

総演奏時間:1分00秒 

楽譜0

編曲0

第4楽章

総演奏時間:6分30秒 

楽譜0

編曲0

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