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フォーレ :ノクターン 第9番 ロ短調 Op.97

Faure, Gabriel:Nocturne No.9 h-moll Op.97

作品概要

楽曲ID:179
作曲年:1908年 
出版年:1908年 
初出版社:Heugel
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ノクターン
総演奏時間:4分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

ピティナ・ピアノステップ

23ステップ:発展4 発展5 展開1 展開2

楽譜情報:1件

解説 (1)

成立背景 : 白石 悠里子 (1490文字)

更新日:2014年8月1日
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「総説」で述べたように、本作品の成立過程はほとんど明らかになっていないが、成立時期を示す一つの手がかりは、1908年9月15日にローザンヌから妻へ送った手紙に見出すことができる。この中で、フォーレは作曲中の《ノクターン》第10番が「他の9曲のノクターンに属するものになればいいのだが」(※1)と記しており、すでにノクターンが9曲存在することに言及している(※2)。したがって、1908年の夏の終りには第9番は書き上げられていたと考えられる。

この時期のフォーレの創作の中心はオペラ《ペネロープ》(1907-1912)に置かれていた。一方で、《ペネロープ》に着手する少し前の1905年に、フォーレはウジェール社と出版契約を結び、1906年から1909年にかけて30曲を書く約束をしていた(※3)。そのため彼は、《ペネロープ》を書き進める合間を縫って歌曲やピアノ曲を複数作曲して出版している。《ノクターン》第9番と続く第10番はこれらの作品群の一部である。

このように第9番は際立ったエピソードを持たない作品ではあるものの、この作曲家のピアノ音楽の様式変遷から見た場合には重要な意味合いを見出し得る。例えばこのノクターンの献呈を受けたクロティルド・ブレアルの夫であるアルフレッド・コルトー(※4)はフォーレが存命中の1922年に、《舟歌》第8番で示された「展開の厳格さ」、「転調の絶対的な明晰さ」という「新しい詩的な状態」がこの第9番の《ノクターン》で「ほとんど決定的になる」とした上で、「一見極めて簡潔なピアノ書法が示す控えめなこの外見の下にこそ、和声語法の密やかで有無をいわせぬ説得力―それが表面的な装飾から開放されるに従ってその力強さは増大する―がある。」(※5)と評し、この作品において晩年の様式の特徴がはっきりと現れてくることを指摘している。

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※1  Gabriel Fauré,  Lettres intimes , présentées par Philippe Fauré-Fremiet, Paris, Bernard Grasset, 1951, p. 167.

※2 《ノクターン》第8番(1902年作曲)は当初《8つの小品》作品84の第8番〈ノクターン〉として1902年9月4日に作曲された。その後、1924年に《ノクターン》第1番から第8番までを所収した楽譜集がアメル社から出版されている。

※3  Jean-Michel Nectoux, Gabriel Fauré. Les voix du clair-obscur , 2e éd. Paris, Fayard, 2008, p. 361.(ジャン=ミシェル・ネクトゥー『評伝フォーレ:明暗の響き』大谷千正監訳、日高佳子、宮川文子訳、東京:新評論、2000年、394−395頁。)

※4 コルトーは1907年に逝去したアントナン=エミール=ルイ・コルバーズ・マルモンテル(1850-1907)(アントワーヌ=フランソワ・マルモンテルの養子)の後任としてパリ音楽院のピアノ科教授に就任した。彼はフォーレの《ノクターン》第7番作品74(1898年作曲)を1901年に初演し、また1918年には《幻想曲》作品111の献呈を受けている。

※5 Alfred Cortot, “La musique de piano”, La Revue musicale , n° spécial, G. Fauré , IV, n°11, octobre 1922, p. 99.

執筆者: 白石 悠里子

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